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広島地方裁判所 昭和39年(ワ)415号 判決 1967年4月26日

主文

被告は原告に対し金七二一、三三三円三三銭及びこれに対する昭和四〇年一〇月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮にこれを執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和三九年二月一日から支払ずみまで日歩四銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、なお予備的請求として、「被告は原告に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和四〇年一〇月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、原告は被告との間に昭和三八年一〇月三一日手形取引契約を結び、支払期日に貸付金の返済をしなかつた場合には支払期日の翌日から日歩四銭の割合による損害金の支払を受けることを約定した。

二、右取引契約により、原告は被告に対し、その振出にかかる約束手形に基き、昭和三八年一一月三〇日金三〇〇万円を貸与したのであるが、これに対し被告は同年一二月三〇日内金二〇〇万円を返済し、残額一〇〇万円について、同日付の額面一〇〇万円、支払期日を昭和三九年一月三一日とする約束手形を振出し、手形書替をした。

三、よつて、原告は被告に対し、右貸付残額一〇〇万円及びこれに対する支払期日の翌日である昭和三九年二月一日から支払ずみまで日歩四銭の割合による約定遅延損害金の支払を求めるわけである。

(予備的請求原因)

四、被告収入役中原義己は、何等の権限のないのに、又被告村議会において一時借入金の議決がないのに、村長印を冒用して村議会の議決のあつたことを証明する旨の書面を作成し、これを提出して原告との間に被告村長名義で前記一記載の手形取引契約を結び、被告村長名義の約束手形を振出して前記二記載の如く、原告から金三〇〇万円の貸付けを受けてこれを騙取したのであるが、原告はその内金二〇〇万円の返済を受けたので、その残額金一〇〇万円が原告の受けた損害金である。

右中原義己は当時被告布野村の収入役であるから、右の行為は被告の収入役としての職務を行うにつきなされたもので民法四四条により被告は原告の受けた右損害を賠償する義務がある。

五、仮に被告に右の損害賠償義務がないとしても、中原の右行為について、被告は民法七一五条によりその使用者として原告の受けた右損害を賠償する義務がある。

六、仮に右主張が理由なく、本件借入れが被告布野村の借入れでなく、被告収入役中原義己が被告名義を冒用して本件借入れを受けたものであるとしても、

(1)  その内金二、一六四、〇〇〇円は、被告布野村立中学校屋内体育館建設工事代金としてその建設工事の請負人である訴外株式会社大宝組に対して被告から昭和三八年一一月三〇日支払われ、

(2)  内金八〇八、六七〇円は、被告発注の工事代金としてその工事の請負人である訴外大本由一に対して被告から同日支払われた。

七  右六(1)(2)記載の訴外株式会社大宝組、同大本由一に対する各請負代金の支払により、被告は右支払の限度において、その歳入残高保管金からの支出を免れ、そして右利得を享受すべき法律上の原因がないのであるから、被告は原告に対しその内金一〇〇万円を返還すべきであり、なお原告が予備的請求として昭和四〇年一〇月八日附本件準備書面でこれが返還を請求をした時に被告は少くともその返還すべきことを知つた悪意の受益者であるというべきであるから、これが返還及びこれに対する右準備書面の被告に送達された日の翌日である昭和四〇年一〇月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による利息の支払を求めるわけである。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を何れも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

原告主張の請求原因事実について、

一、二の点は否認する。

四の点については、被告収入役中原義己は、民法四四条にいう法人たる被告の「理事其他ノ代理人」に該当しないし、中原の原告主張の行為は、何等その権限のないものであるから、民法四四条にいう「其職務ヲ行フニ付キ」なされたものではない。

仮に被告に原告主張の如く損害賠償義務があるとしても、原告は貸付を業務とする銀行であり、中原義己は被告の収入役に過ぎないのであつて、被告を代表して本件貸付を受ける権限等を有しないことを充分調査すべきであつて、本件損害の発生については原告側にも過失があるというべく、被告は過失相殺を主張する。

五の点については、中原義己の原告主張の行為は、前記同様民法七一五条にいう「其事業ノ執行ニ付キ」なされたものではない。被告は、収入役たる中原義己の選任、其の職務についての監督について相当の注意を尽しており、過失はない。

仮に被告に原告主張の如く損害賠償義務があるとしても、前同様被告は過失相殺を主張する。

六の(1)、(2)点は否認する。

七の点は否認する。なお、仮に、原告主張の六の(1)、(2)の各請負代金が、原告主張の本件貸付金で支払われたとしても、それは訴外中原が既に費消横領した被告の公金の一部を補填するため、中原個人が原告から借受けて被告に弁償し、その弁償金が右請負代金の支払に充てられたに過ぎないのであつて、被告は中原から右弁償を受けるべき法律上の原因を有する。

原告訴訟代理人は、被告主張の抗弁事実について、各過失相殺の主張における原告の過失の点、中原義己の選任、監督上の無過失の点を否認すると述べた。

立証(省略)

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